西洋医学で心の病の完治ができないことは、前ブログで述べました。その理由は、心そのものが解明できていないからです。心は直観智で悟るしかないとは東洋医学のは教えです。言葉での意識化や分析を超え、時間や空間を超えた世界が心の世界だからです。不可思議でつかみどころがない世界を対象にしているから、迷信や宗教や浅薄な心理療法がはびこります。心が見えないだけに、また解明されていないがゆえに視聴覚情報が流行を作り、あたかも本物のように真理を知らない人たちを煽り、拝金思想の人たちに利用されていきます。
最近の東洋医学で心の病をかなりの確率で改善している人は、おそらく以下の二名と思われます。それは、森田療法の創始者慈恵医大の精神科医森田正馬氏とマインドフルネスの開発者ジョン・カバットジン氏です。彼らは療法も卓越していますが、何よりも人格が秀でていて、心が優れた人たちです。名誉やお金を求めず、苦しむ人たちを救うことを第一義にしている菩薩(他者の苦しみを抜き、楽を与えることを第一義している人のこと)のような人たちです。
かつて神経症(現、抑うつ神経症、各種対人不安症、パニック障害、強迫性障害など)を全治させたのは、森田正馬の治療法であり、現在も森田療法として引き継がれています。その治療において、森田氏は薬を使うことを愚かなことと考え、薬は一切使っていません。
森田正馬氏著「神経衰弱と強迫観念の根治法」に「薬の広告が、いかにあわれなる患者を毒していることだろう」とはっきり書かれています。また薬の投薬は無知な医者のすることであり、もっと心のことを学びなさいと厳しく述べ、神経過敏から起こる神経症治療に薬を使えば、患者の依存性を強め、かえって病は酷くなると断言しています。
森田氏のこうした信念に基づいた療法は、当時の医学界から一斉に反撃されましたが、森田氏を論破できた医療専門家はいませんでした。なぜかというと森田氏が患者を治し、他の医師は治せなかったという結果がすべてでした。今なお森田療法が神経症の治療で世界に展開されている事実が彼の信念の正しさを証明しているといってよいでしょう。
彼の治療は、対話療法的アプローチで本人の自覚を促すものでした。患者本人が自らの心、心身の理解を深め、病因の根本を洞察し悟ることで、正しい対処ができるようになり、完治していったのです。森田療法における入院治療は悟るための修行でした。森田氏の療法は自覚療法とも言われ、仏教医学の実践だったのです。彼の療法は、彼自身が強迫観念と心臓神経症(現パニック障害)を自ら治癒した経験からの洞察から生まれたものです。死の恐怖と向き合い、地獄の苦しみの中での悟りであり体得でした。
森田氏の治療法の究極は自らの心身に「あるがまま」になることであり、無為自然であり、自らの尊い生命に「南無」することでした。つまり自らの本然のいのちに則って生きることを目標としたのです。彼は仏教の禅に精通していたと思われます。その悟りはマインドフルネスのカバットジン氏の目指すものと同じように思えます。森田療法は修行なくしては使えない療法なのです。