愛するとは お互いに見つめ合うことではなく 二人が同じ方向を見ることである (星の王子の作者 サンテグュペリ)
かつて放映された韓国ドラマ「冬のソナタ」は、多くの女性の心をとらえ、感動をもたらしました。その物語の主題は二人の心が描き出す美しい愛の賛歌でした。文学や音楽の多くは恋愛が主題であり、洗練された愛を追い求め 人の心をつかんでいます。
人は心の奥で真の愛を求め、そんな愛に憧れ、探し続けています。深い愛との出会いは、人の心を清らかにし、その人の持つ美しさを醸し出します。
これは男女の愛だけにとどまらず、親子、友人、自然、動物、芸術など、さまざまな対象に対して共通するものです。桜が春に美しく花開く陰には、大地の恵み、みずみずしい水、太陽の優しい光など多くの自然の愛が注がれています。親から本当の愛を貰った子どもは、心が安定し、情緒が育ち、素直で、清らかに生きていけるようになります。愛はそれだけ偉大な力を持っています。
では、愛とは一体、何なのでしょうか。
愛の表現…恋愛、人類愛、家族愛、兄弟愛、夫婦愛、親子愛、師弟愛、自然愛、動物愛、母性愛、母校愛、芸術愛、研究愛、博愛、慈愛など…、愛のつく言葉はたくさんあります。それぞれ意味は微妙に違っています。また使う人が自分なりの意味をこめることもあります。
しかし、その愛とは何なのかというと明確に答えられる人が、果たしているのでしょうか? 日本にはもともとない言葉であり、欧米のLOVEの訳語だからです。翻訳語の曖昧さが日本で創作され美化された代表的な言葉が「愛」と言えます。
愛ほど抽象的なつかみどころがない言葉はありません。しかも快い響きを持った数少ない言葉です。それは、愛しているという言葉には、不思議な心地よい響きの調べがあるからです。愛という言葉は、どのようにも解釈できる幅がありますから、真実の愛が分からなくなったりします。
男女の愛では、恋は愛の序章になります。恋なくして男女の愛の成立は難しいと思われます。恋は好きという感情から始まります。その感情が中心ですから、盲目になり、暴走しがちになります。その段階で結婚まで走ってしまえば、早期の破綻を迎えるかもしれません。駆け落ちは、恋の盲目性のなせる業であり、その結婚の多くは、うまくいってないのが現状です。恋心を抑制する知が薄れ、高揚した恋情が先行してしまった結果です。
恋愛は、その盲目的本能に知性をもたらし、自己中心性と葛藤し、相手のことを考えるようになり、双方の成長の機縁になります。恋愛の二人の成長の先に、愛が待っています。愛は二人が紡ぎ出す、この世に二つとない美しい世界を表現します。その一端を私たちは恋愛小説やドラマに見ることができます。愛を育てていけば二人は終生、美しい絆をつくってゆけます。その二人に、離婚(注1)という文字はありません。
愛の模範を、お腹の中に子どもを宿した母親に、見ることができます。母親は、宿った子どもを自らを顧みず、そのいのちを守り、大事に育てていきます。無償の愛の行為です。釈尊(注2)は、その心と振る舞いを慈悲(注3)と名付けました。
愛は本当の優しさをともないます。また見返りを求めることはしません。相手がどんな状況になっても、たとえ相手の姿かたちが変わり果ててしまっても、その人のすべてを受け入れ 守り、大事にし、尽くし抜く心、それが愛です。
例えば、男性が新婚前後の女性に愛を捧げるのは難しくありませんが、10年、20年、そして相手が白髪になった70代、80代になっても愛を貫くことができれば、それは本物の愛です。そのパートナーは世界で最も幸福な人といえます。
愛はお金や財宝、名声、人気、地位で得ることができないとスティーブジョブ氏(注4)は言いました。この世界の最高の宝なのです。生きているときも、そして死後にも持っていける美しい心の品性です。
愛の実践には、心の強さ、心の清らかさ、正しい心を保つ品性が求められます。愛は二人を高め合います。高め合う愛こそ本物の愛です。愛は人間の品行の成長を伴います。愛する二人は限りなく向上し輝き、美しさを放ち、周囲をほのぼのとさせます。それが本物の愛の品格です。
愛は その人のすべてを受け入れ 大事にし たとえ相手が白骨になったとしても その人を 永久に 愛し続ける それがまことの愛です。
私の妹夫婦(注5)が紡ぎ出した、本当の愛の詩の一部を詠んでみました。
注1 釈尊 ゴータマシッダルタ、一般的にブッタと呼称されています。約2600年前、インドの釈迦族の王子として生れ、何不自由のない生活を送っていましたが、心は晴れず、もんもんとしていたと言われています。人生の真の生き方を模索し19歳で出家したとされています。当時のあらゆる修行者に師事し修行を重ね、難行苦行の修行の末、30歳で生命の永遠の因果の法を悟ったとされています。正統仏教は宇宙、自然、生物、人間という万象を貫く、不思議な因果の如来の法を根本にしていると言われています。
注2 離婚 …現在の日本では、三組に一組が離婚すると言われています。その原因は様々ですが、一番は「性格の不一致」と言われています。正確に言えば、相手が理解できず、相手の欠点や嫌なところを受け入れることができなかった結果です。
好きと感じた一時の感情は、裏返し感情の嫌悪・嫌いに変ります。人の好悪感情、愛憎は、例えていうなら、同じ硬貨の表と裏の関係のようなものです。一時は好きで抱擁し合った関係だったはずですが、嫌悪感に支配されると、一緒にいたくない、最悪、同じ空気を吸いたくないなどの気持ちになったりします。二人の関係は、恋の段階、もしくは恋愛の段階で終わり、愛を慈しむ主題にまで到達していません。離婚の多くの原因は、筆者に言わせれば、本当の愛を知らなかった結果なのです。
注3 慈悲 …他者を守り、支え、育み慈しむ振る舞い。自然や宇宙の根本の法則の周波数に自分の周波数を重ね合わせるようにして生きるとき、心の奥底から湧き出ます…母親の一時的な慈悲の働き、菩薩の世界。その慈悲の周波数に生きるとき、あらゆる生命、人間は本来の調和を奏で最高の自分を発揮し充実し安定し、真の幸せ郷に至るとされています。
代表的な人に、孔子、老子、イエスキリスト、キング博士、ガンジー、中村医師、ヘレンケラー、ナイチンゲール、観世音菩薩、弥勒菩薩、竜樹菩薩、不軽菩薩などの無数の菩薩がいます。その他、慈悲の体現者として、釈尊、天台大師、伝教大師、日蓮聖人など無数の諸仏が存在するといわれています。
注4 スティーブ・ジョブズ…アップル社を設立し、その会社の共同経営者。一代で巨万の富と名声をほしいままにしたが、55歳ですい臓がんのために、2010年にこの世を去ります。スティーブ・ジョブズの「最後の言葉」の大意を筆者がまとめたものです。
注5 妹夫婦は45年近く、ともに歩み続けましが、先日、70歳でこの世を後にしました。特に、癌緩和病棟で過ごした8日間、24時間寄り添う夫(義弟)、ベットのそばで、腫れ上がって痛む妻(妹)の腕を、ずっと優しく撫でながら、語り掛けていました。臨終の瞬間まで手を握り「ずっと一緒だよ、明日も明後日も、来世も、ずっと一緒にいるよ。愛している」と語りかけていました。そんな光景を目の当たりにした私は、愛の何たるかを教えてもらった思いです。妹のことは、このブログ「死の瞬間が物語る その人の人生の真実」(1月19日版)に載せています。本当に尊敬できる夫婦でした。私の心も二人の愛に、どれだけ浄められたかわかりません。二人の心を少しでも伝えたいとの思いで、このブログを書きました。
※当室は、あらゆる宗教・思想団体にも所属していません。室長は、若い日より、万般の思想、哲学、宗教、文学、科学、心理学を学び続け、今もその学びの旅は続いています。