「私の目的は、個々の人が、自分自身の翼で飛ぶという意識を取り戻すことを教えたい」
ニコラ テスラ (20世紀の物理学者・詩人)の名言です。
人間にとって大事なことは何があっても、どんな環境にあっても、それらに適応する力を持ち自立して生きる力を持つことです。
めまぐるしく変化する社会に大人も子どもも適応することに困難を感じています。それが、社会不安障害、うつ、適応障害、ひきこもり・不登校という心の不調を増産しています。
科学技術の急速な発達により、便利、物質的豊かさは年々加速し、人間の忍耐力や思考力を脆弱化しています。人は全てのことを当たり前と思い、科学技術に盲信し、いつしか驕りという毒を飲まされ、自分の外にあるものに感謝の念が持てなくなり、素直な純粋な心を失い、今の瞬間の生の有り難さを享受できなくなっています。
スマホ・パソコン、テレビなどの電磁気製品の普及に人間の心身、脳は適応できず、人は心身のバランスを崩していることに気づいていません。見える情報、聞こえる情報に、いしつか操作され、思考力や想像力、忍耐力を培う場を失っています。
想像力と忍耐力の不足は人間関係を難しくします。
引きこもり・不登校は、環境適応できず、社会から逃走し、家という安心空間への回避した状態です。
会社や学校で嫌な出来事に遭っても、それに対する反応は人それぞれです。みんなが、そこから回避するわけではありません。では、引きこもりや不登校者は、なぜ家という安心空間に回避したのでしょうか。その原因について考察してみます。
一つは、個の脆弱性の問題です。これは人として生きる総合的な力を指します。どんな困難、嫌なこと、辛いことがあっても立ち向かい乗り越えてゆく力です。いわゆる逞しさであり忍耐力であり挑戦する力です。こうした力がないと、変化し想定外のことが起きる世界では生きてゆけなくなります。ひきこもり・不登校者には、概してこの力が不足しています。身に付いていないといったほうがよいかもしれません。
この力は総合的な教育で培われる力です。ここでいう教育は学校教育という皮相的なものを指しているのではありません。かつて幼くして山に捨てられ、狼に育てられた二人の少女は、人間に発見された後、牧師に育てられましたが、人間の生き方ができず、下の少女は、数年後に亡くなりました。上の子は比較的長く生きましたが17歳で亡くなったそうです。上の子が身につけた言語は単語表現であり、100語以下だったそうです。
人間は人間らしい人間に育てられて人間になってゆきます。自己中心的な人間に育てられれば、養育者の言動や振る舞いは毛穴から入り、心身に染み込み、模倣するようになり、やがて同じような人間になってゆきます。
二つ目は、人間関係力、人間集団適応力、自己表現力(コミュニケーション力)の問題です。人に不安や恐怖を抱いたり、警戒心が強かったり、不信感を抱いたり、人の視線を過剰に気にしたりして、人とうまく関われなくなっています。これは本人の素質や過去の心的外傷体験とも関係しています。
三つ目は意識できないストレス蓄積でです。ストレスは主観による絶対的感覚です。他とは比較できないものです。いじめが見過ごされるのは、本人の主観的体験を周囲の大人が共感できないからです。他者の傷つきに共感できる力こそ想像力です。想像力を使って、傷ついた人の体験を疑似体験することで共感できるようになります。相手を外側から見るだけでは、すれ違ったままになります。知識をもとにした想像力の発動は、優れた人間性の一面です。現在の大人にはこの能力が不足しています。結果子どもは、「わたしのことはだれも分かってくれない」と寂しくつぶやき、個室にひきこもるようになります。
四つ目は、人間に対する知識、人生の目的や意味、学ぶ意味、幸福とは何か、社会や自然に対する正しい知識などの有無です。ものごとのとらえ方や認知の偏りや低い価値観にとらわれ、欲望や感情抑制の方法を知らないなど、人間に対する無知、部分にとらわれて全体を見ない思考法が根底にあります。
五つ目は家庭環境(過保護、過干渉、虐待、放任など)がもたらした生きる力の不調和偏向(バランスの悪さ)と社会環境です。家庭や社会が与える情報や常識や便利さなどが教育の役割を担い大きな影響を子どもに与え続けます。ある意味、これが一番の要因かもしれません。
六つ目は、感覚情報の氾濫による脳の汚染現象です。スマホ、パソコン、テレビから流れる過剰な刺激の強い視覚・聴覚情報は感覚を狂わせ、正常なホメオスタシスを壊していきます。そして疲労し病的な状態を創産み出しますが、人はこれを意識できてません。この疲労は、不安となり、不登校・ひきこもり大きな原因をつくり出しています。
これらの要因は相互に関連しあって、回避の方向へ本人を向かわせ、この解決ができないと長く長くひきこもりを続けてくようになります。
こうした本質的な要因の把握なしに学校・社会復帰させようとして、関係機関に相談し、子どもだけをなんとかしようとする無駄を繰り返しているのが現状です。的を外した対処に改善はありません。逆に悪化させ、ひきこもり・不登校を長期化させることになってしまいます。
親も子どももともに人間としての新たな学びが必要になります。昔から、子育ては、親育てといわれたように、子どもの成長と親の人間的成長は同時に進みます。親が成長した分、子どもも確実に成長してゆきます。
「学べば学ぶほど、私は何も知らないことがわかる。自分が無知であると知れば知るほど
より一層 学びたくなる」(アインシュタイン)
当室では、心理教育を重視し、人体、心を知る、身体と心の相関性を知る、自然や宇宙と人間の関係を知る、社会を知る、人生を知ることを学びます。
具体的には認知行動療法による行動活性化や認知の再構成、自他尊重の自己表現力の向上(アサーション)、マインドフルネス調和法(心身の統一・自己肯定・安心)を身につけながら、正しい知識と智慧の獲得を目指します。智慧とは生きる最善の対処法です。どんな環境下にあっても自分に負けず、開拓できる心の力、それが智慧です。
最終目標は、人として「一隅を照らす」生き方ができるようになることです。その言葉は、中村哲医師の生き方の指針でした。
アフガニスタンの困窮難民のため身を削って人道の道に生き、流れ弾に当たって命を落とされた中村哲医師のような方こそ、本物の人であり、現在の菩薩(慈悲と愛の心で他者を育み守ることを第一義にして生きる人・幼子を守るために自らを省みず献身する母親もその一部)の一人だと思います。このような真の利他の振る舞いをする大人が増えれば、その国の民も心が潤い、自然や国土も潤い、災害も減少していくでしょう。
※中村哲氏の座右の銘「一隅を照らす」日本天台宗開祖最澄の言葉。意味は、「一人一人が自分のいる場所で、自らが光となり周りを照らしていくことこそ、私たちの本来の役目であり、それが積み重なることで世の中がつくられる」