安心感と自立について
安心感の量が少ないまま、思春期・青年期に差しかかると、自立することが難しくなります。そのようなときに、友達関係や勉強・学習で躓(つまづ)くと、その場から回避(かいひ)し引きこもったりすることがあります。それは、本人にとって意味のあることであり、戻るためのエネルギーを補給しているともいえます。回避することによって安心感を蓄えることができれば、再び自立に向かって歩み出すことが可能になるからです。
安心感の量が不足している状況で学習やしつけを優先しすぎると、心のエネルギーは低下し続け不適応状態が進んでしまいます。やがて心の不調を訴えるようになってしまいます。
安心感の低下がささやかれる今日、友達の顔色を気にしながら、必死にはずれないようにしている子どもたちの疲労感は大人が思っている以上に大きなものがあるようです。そのような現象は子どもたちのみならず、大人社会においても起きていると言われています。
安心感を育む「聞き上手」
人間は自発的な表現を受け止めてもらうことで、自分の存在を確かめていると思われます。このことは甘えとも通じるところです。「安心して甘えられるとは、評価や圧力が存在しない場であり、ありのままの自発的な表現が認められる場と言えます。速さや効率が優先される社会では、「早くして!」「急いで!」という言葉が先行し、大人も自発的な表現が待てなくなっているようです。
人の気持ちを知る…聞き上手…そのための三つのポイント
1 待つこと
自分以外の相手とのコミュニケーションの基礎となるやりとりは、授乳時の母親と赤ちゃんのやりとりから始まっていると言われています。それは、赤ちゃんの表出する信号を母親が注意深く受け止めた後、母親が自分の信号を赤ちゃんに返すということです。つまり相手の信号(自発的な表現)を注意深く受け止めるために「待つこと」が大事なのです。
2 相手の感情を受け入れること
「人間は感情の動物である」と言われることがあります。自分が表現した感情(特に負の感情…不安・怒り・悲しみ・辛さなど)を受け取ってもらえると、自分自身の存在をも受け取ってもらえたような気持になり、安心感は増してくると思われます。(例:「つかれたのね」「きつかったね」「辛かったね」「悲しかったね」「気になるのね」「悔(くや)しかったよね」「頭に来たのね」など感情に寄り添(そ)います)
3 声なき声に耳を傾け、心を感じること(共感的理解)
子どもや思春期の心の中は混沌(こんとん)としており、自分の感情を素直に言葉で表現することは難しくなります。また、これまでの育ちの中で抑圧(よくあつ)された感情は、具体的な言語などで表現されることは少なく、抽象的(ちゅうしょうてき)なイメージなので表現されます。言葉にならない言葉あることに留意(りゅうい)し、相手の信号を注意深く受け取り、相手の心(こころ)模様(もよう)を感じることが大切です。人生とは物語であり、人間は日々いろんな表現手段を用いて、自分を物語(ものがた)っています。その語(かた)りにそっと寄り添い耳を傾ける時にのみ聴(き)こえてくる魂(たましい)の響きや心の振動などを感じ取ることが大切です。「泣いてばかりいないで言葉で表現しなさい」と言いがちですが、あふれ出る涙の中こそ、いろいろな語りや気持ちの表出があるのです。